犬とのボール遊び

愛犬が「投げて」とボールを持ってきたら、飼い主さんは投げてもいいのでしょうか?

愛犬との関係がうまくいっていて、何の不満もないという場合には、まったく問題ないと思います。わが家では、私が気が向いたときは投げてやるし、向かないときは投げません。決定権は私にあります。愛犬の態度に少しでも不満がある場合には、投げないことをお勧めします。

トイプードルのアンソニーの飼い主さんは、「しつけの本はたくさん読んだし、インターネットでもさんざん調べた。こんなに真剣にしつけに取り組んでいるのに、どうして愛犬は自分の言うことを聞いてくれないのだろう」とお悩みでした。カウンセリングが済んでから、さっそく「オイデ」、「オスワリ」、「マテ」をやっていただきました。

「できるかなあ~、はい、アンくん、オスワリ! あれえ、オスワリだよ、オスワリ!いつもはやるんですけどね、今日はやらないなあ。お客さんがいるからかな。オスワリ!オスワリだよ、オスワリ! オースーワー
リー!」

だんだん焦ってくる飼い主さん。アンソニーは飼い主さんが必死になればなるほどうれしそうにしっぽを振っています。自分に注目してくれているのが楽しいのでしょう。でも、座る気配はありません。しばらくするとどこかへ走っていき、ボールをくわえて戻って来ました。すると飼い主さんは、「えー、ボールがやりたいの?しようがないなあ」とボール投げを始めてしまいました。

アンソニーの通訳をすると、「お客さんが来てるのにどうして遊んでくれないの?スワレって?どうして今?そんなに必死になって、どうしたの?そうだ、ボール投げをしよう!そっちのが楽しいよ」。そんなメッセージを送ったのでしょう。決定権はアンソニーにありました。

「オスワリ」の指示を出したのに、アンソニーが持ってきたボールを投げてやったことで、アンソニーが指示に従わないことを許可してしまいました。アンソニーは「指示には従わなくてもよい。しかも、ボール投げをしたかったらそれを要求してよい」と学習したことになりました。次回も従いたくないときは従わず、またボールを持ってくるかもしれません。

アンソニーの飼い主さんへの具体的なアドバイスとしては、まずはきちんと決定権を取り返すため、ベースプログラムに取り組んでもらいました。また、「オスワリ」や「マテ」などの簡単なトレーニングを、毎日2~3分やってもらうようにお願いしました。これは、オスワリさせられるようにすることが目的です。

トレーニングを行うときの注意事項ですが、指示を出すのは一度だけ。従ってくれたらおやつを与えますが、従わなかったらトレーニングを中断してしばらく無視します。従わなくても叱らないこと。「ダメじゃないか」などと声もかけないほうがよいでしょう。「やらないのならおやつはあげないよ」くらいの態度で十分です。

とくにこの飼い主さんは犬の要求に応えやすいということで、十分注意していただくことにしました。たとえば、アンソニーが「ボールを投げて!」と要求したら無視して、あきらめたころに「ボール投げをしよう」と誘って投げてやるのです。

インターネットであれこれ調べたしつけ法をいったんすべて白紙にしていただき、新しいルールを実施してから3週間ほど経ったころ、飼い主さんからメールをいただきました。

「言うことをきかないアンソニーもかわいかったのですが、言うことをきくアンソニーはもっとかわいくなりました。犬たちは必ず応えてくれることを実感しました。アンソニーからは、不思議と前よりも好かれていると感じます。しつけっておもしろいですね!」

悩んでいた飼い主さんが、しつけを「楽しい」、「おもしろい」と思っていただけるようになるのは、私にとっても本当にうれしいことです。